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更新日:2012年6月20日

自治の「危機」、住民と自治体職員が創る「希望」
自治労大阪府本部第15回自治研集会が問いかけたもの

1.ポスト東日本大震災、ポスト大阪W選挙における自治研集会

 東日本大震災と大阪W選挙を経て「第15回自治研集会」は開催されました。政権交代が実現し、「地域主権改革」への期待の中で開催された前回とは打って変わり、地方自治の危機とともに自治労の組織と運動に対する攻撃を肌に感じての開催となりました。

 橋下・維新の会が提唱する「大阪都構想」におもねるように与野党を問わず中央政党は議員立法による地方自治法改正や手続法の制定作業を進めています。一方で、普天間基地の辺野古移設や大飯原発の再稼働問題では自治体の主張に耳を貸さず、国家が前面に出ることで「決められる政治」を実現し政治への信頼を回復すると主張しています。

 自治の危機は政治の危機であり、大阪の危機は日本の危機でもあります。しかし嵐は樹を鍛えます。乗り越えるべき課題は危機の中でこそ顕現します。その課題を抉り出すことこそ今回の自治研集会のテーマであったと言えます。

2.東日本大震災後の自治体と市民社会の可能性―プレ自治研

 震災から約1年を経た3月17日、自治研プレ集会として、今井照福島大教授の講演会を開催しました。

 今井教授は原発事故避難住民調査に取り組んでこられました。避難生活者は2012年2月現在で16万人に及びます。自治体職員は時々刻々変化する事態の中で判断が迫られました。今井教授によると、震災直後、基礎自治体は機能していないと報道されたが、事実は逆で基礎自治体のみが機能し県も国も全く機能しなかったとのことでした。

 事故の収束が図られない中で、厳しい判断が必ずしも住民の支持を得るわけではなく、矢面に立たされた職員が追い詰められていったということです。疲れきって退職していく職員、退職することも許されず病気に倒れる職員…。身に迫る重たい現実を前に、今井教授は「急がない復興」、すなわち旧来型の「復興特需」が期待できない中で、縮小社会を前提とした自治体と市民主導の地域社会再構築を提唱されました。

3.現地から考える地方自治の「危機」と「希望」-記念シンポジウム

5月18~20日にかけて開かれた大阪自治研集会の記念シンポジウムでは、現在の地方自治を取り巻く危機的状況に対し、提言があった

5月18~20日にかけて開かれた大阪自治研集会の記念シンポジウムでは、現在の地方自治を取り巻く危機的状況に対し、提言があった

 5月18日、19日両日にわたる記念シンポジウムでは佐藤栄佐久前福島県知事、伊波洋一元宜野湾市長、平松邦夫前大阪市長をパネラーにお招きし、コーディネーターは中島岳志北大准教授にお願いしました。「現地から考える地方自治の危機と希望」をテーマに、2日間、計4時間にわたって「現地」での実践を踏まえた議論をたたかわせていただきました。ここにすべてを紹介できないため中島准教授のまとめの発言をご紹介し、要約に代えさせて頂きます。

 「様々なしがらみからの自由が価値あるものと考えられてきましたが、自由を求めすぎると個々人がばらばらになり、逆に一体感を求めて大いなる権力者を受け入れてしまう。その連鎖を冷静に分析して、共同体やコミュニティの新しい姿を生み出していく必要があります。デモクラシーがうまく機能するために最も大事なのは、国家と個人の間にある中間的な存在。その役割を担う自治体が包摂力を持って住民と一緒に進んでいくことが現在の自治の危機に対する一つの処方箋だと思います」

震災が発生した14時46分には、参加者全員が手をつなぎ、黙とうをささげた

左より中島岳志・北海道大学準教授、平松邦夫・前大阪市長、
佐藤栄佐久・前福島県知事、伊波洋一・元宜野湾市長

4.自治体労働現場から市民自治を考える-分科会

 19・20日に開催した分科会では、組合員が参画した実践を踏まえて、これからの市民自治と公共を考えることをめざしました。

 動物園の象の糞を肥料とし保育所などの菜園活動に生かし、実った野菜を園児たちが象にプレゼントする大阪市従の「リサイクルの輪」の実践 (環境分科会)。

 大阪市職の防災井戸掘り、大阪市従のふれあい収集、八尾現労の里山運動(市民協働分科会)。

 忠岡町職の忠岡町内美化活動(自治研入門分科会)。

 近隣で発生した虐待死事件が契機となり地域の子育て活動に立ち上がった父親たちと児童福祉施設職員の出会いが生んだ「やきいも」の皆さんのミニコンサート(子ども分科会)。

 豊伊クリーン労組と障害者就労支援運動が結び付いて生まれた「株式会社きると」とよりそい型支援の草分け「NPO暮らしづくりネットワーク北芝」の取り組み(障害者就労支援)。

 多摩市の公契約条例制定に尽力された自治労日神サービス労組平間副委員長の講演(公契約分科会)。

 これらの実践報告を土山希美枝龍谷大准教授、木原勝彬NPO法人理事長、櫻井純理立命館大教授、吉村臨兵福井県立大教授ら助言者の皆さんとともに到達点と課題を語り合っていただきました。

 さらに自治体財政研究会でご指導いただいている的場啓一静岡大准教授による社会保障と税の一体改革に関する講演会も開催しました。

 初めての試みとして天神橋筋商店のイベントスペース「天三おかげ館」をお借りして震災復興支援東北物産展や就労看護職員200万人体制確立を目指す署名活動にも取り組みました。

5.自治研集会、そして…

 震災を機に「絆」という言葉がよく語られたが、人と人の絆はそうたやすく形成されるものではありません。反面一度結びついた絆はそう簡単には断絶しません。公務員バッシングの渦中にあって、多くの市民の方が今回の自治研集会に駆けつけてくださいました。その背景には組合員のたゆまない実践と市民協働の思いがあります。

 最後に、今後の取り組みへの決意に代えて、大阪が生んだ作家・開高健さんが愛した詩の一節を記して報告を締めくくります。

「明日世界が滅ぶとしても、君は今日リンゴの木を植える」

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