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第21回大阪地方自治研究集会標準化がもたらす地方自治 「非平時」集権化の動きに警鐘

5月7日、府本部は大阪地方自治研究センターと共催で「第21回大阪地方自治研集会・全体集会」を開きました。集会は、大阪市内の会場とオンライン配信を併用する形式で取り組まれ、あわせて217人が参加しました。
集会は、「人口減少社会における公共サービスの役割」をテーマに、第1部で講演、第2部でパネルディスカッションが行われ、多くの自治体が抱える人口減少問題が今後さらに顕在化していく中での自治体運営の方向性や財政、まちづくりなどについて幅広い議論が行われました。

集会の写真

パネルディスカッションでは幅広い分野で議論が行われた

主催者あいさつ

対面会場での大阪地方自治研集会の開催は3年ぶりです。主催者あいさつを行った中野委員長は、高齢化の引き起こすさまざまな社会問題への対応について、国が示している経済や効率性を優先した施策では、「結局は住民の生存権を脅かすことにつながる」とし、憲法が保障する人権・生存権を守る立場から、「この集会を契機に国主導の自治体政策の問題点を見極め、誰もが安心して暮らせる社会を実現したい」と述べました。

第1部

今井照さんの写真
国が考える自治体業務のデジタル化について講演する今井照さん

「デジタル社会と地方自治」をテーマに講演を行った地方自治総合研究所の今井照研究員は、人口の動向について、「大阪府の人口は全体として減少するものの、比較的安定的に推移する」としながらも、「地域差に注意する必要がある」として、「小規模町村をフォローする大阪府の役割が重要だ」と述べました。

そのうえで、大阪府は危機意識をあおって万博とかIRといった大きなことをするのではなく、「人口が減少する中で、まち、人、くらしを支えていくという役割を果たすために、議会に小規模町村の声が届く仕組みが必要」とこれからの議会のあるべき姿についても言及しました。

国政課題として地方自治の動向について、まず地方制度調査会の性格や役割を説明した上で、現在、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の推進、新型コロナウイルス感染症対応における国と自治体との関係について、第33次地方制度調査会で議論されていることを紹介しました。

そしてその背景には、「昨年の骨太の方針とコロナ対応における定額給付金配布段階でのトラブルなどで、地方自治や地方分権が悪いという問題意識がある」と指摘しました。

すでに、自治体DXの一環として基幹17業務プラス3、合わせて20業務のシステム標準化が国の法律によって定められていますが、これについては「システム標準化によって自治体の独自政策が行いにくくなってくる」との見方を示しました。

あわせて、こうした地方自治への制約は、コロナ対策という名目のもと「非平時」には集権化するという傾向が顕著になっており、「国の動きを注意深く見ていかなければならない」と警鐘を鳴らしました。

「デジタル社会の地方自治のあり方」について、土地に区切られた空間に存在する住民が、デジタル社会の進展による住み方、働き方の変化によって、「いくつかの地域に属するという現実が起きてくる」とし、「それに対応した制度が求められてくる」と述べました。また、高齢化による世帯の単身化が進むことによって、「家族を基礎単位とした日本の社会政策、地方自治政策をはじめ地方自治そのものについても何らかの変更を求められる」と問題提起しました。

第2部

第2部のパネルディスカッションでは、1部で講演を行った今井照さんをコーディネーターとして、長内おさない繫樹さん(豊中市長)、的場啓一さん(大阪商業大学教授)、田中信一郎さん(地域政策デザインオフィス代表理事)の3人がパネラーとして議論を行いました。

「豊中市の広域連携の取り組み」について報告を行った長内さんは、持続可能な行政運営をめざすというコンセプトのもと、近隣市や企業と共同で行っている広域連携、公民学連携としての事業を紹介しました。また、西宮、尼崎、豊中、吹田市4市の広域連携(NATS)の取り組みも紹介しました。

「人口減少・労働力人口の減少に伴う自治体財政の状況」について報告を行った的場さんは、自治体は「やらなければいけないことをやるのに、どれだけお金がいるのか、そのお金はどこから調達してくるのか真剣に考える時点に来ている」と寝屋川市で検討している事例などを紹介し、対策の重要性を強調しました。

「人口減少をふまえたまちづくり」について報告を行った田中さんは、本来求められるまちの形は「過密でも過疎でもなく、車に過度に依存しない町」だとしました。また、インフラ問題についてドイツの都市インフラ公社の事例などを紹介しました。

報告後の討論では、会場からの質問に答える形で、地域コミュニティ推進策のあり方や行政運営のマニュアル化とそのデジタル化について議論がありました。

最後にコーディネーターの今井さんから、「各市町村で工夫されたことが横につながっていって、少しずつ改善され全国に普及するというのがデジタル化のあるべき姿」とまとめ、パネルディスカッションを終えました。

府本部は、今回の全体集会で提起された課題を整理し、来年に開催する第22回大阪地方自治研究集会・分科会につなげていきます。