更新日:2012年6月12日
自治労大阪府本部自治研推進委員会
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※ 論文全文をダウンロード→『大阪における自治の危機の現状とその克服に向けて』(PDF)
2011年11月27日に執行された大阪府知事、大阪市長同日選挙(いわゆるW選挙)において、大阪維新の会が勝利をおさめ、松井一郎大阪府知事と橋下徹大阪市長が誕生し、約半年が経過しようとしている。両首長と維新の会は、マスコミの世論調査に示される高い支持率等を背景に、選挙戦において掲げた諸政策を強引ともいえる政治手法で推進しつつある。しかし、有権者はこれらの政策のすべてを支持したわけではない。また、府民・市民の圧倒的多数の支持を得たわけでもない。
例えば橋下市長は750,813票を獲得したが、522,641票を得た平松前市長との比率は59:41であり、有権者約200万人に対する橋下票の比率は約37.5%にすぎない。にもかかわらず選挙の勝者の主張こそ「民意」であるとし、対話と協調の姿勢を欠いた強権的な政治手法で、市場原理主義に純化されつつあるその政策を強行しようとする姿は、大阪府市の地方自治とりわけ住民自治のルールを著しく棄損し、社会的共通資本である公共サービスの解体を招来するものとして批判せざるを得ない。
本来、政権担当者が政策を推進するにあたっては、議会や住民組織、労働組合をはじめ各関係団体とルールに則って協議を尽くし、合意形成を図りつつ推進すべきであるが、両首長はこれらの関係団体を一方的に「既得権益」層と決めつけ、「スピード感」や「決定できる民主主義」などを標榜し民主的手続きを否定し、強権的な政権運営を行っている。一方、全国政党は国政における政治不信が深化し、与野党通じて支持率が低迷していることから、国政進出への意欲を隠さない維新の会に対し、政策的な対抗軸を提起できず、大阪都構想実現に向けた地方自治法改正への対応など、すり寄りとも受け取れる動向を強めている。
また、労働組合に対して不当労働行為の疑いが極めて濃厚な対応を繰り返し平然と行うとともに、極めて政治的な更迭人事を弄し、また「職員基本条例案」議論などを通じて管理的懲罰的な人事管理を既定路線化することで、自治体職員が政策についてものが言えない体制を築いてきている。市民活動団体やNPOなど新しい公共の担い手たちも、両首長の地方政権運営に疑問と疑念を持ちつつも静観を強いられているのが実態である。
既に維新の会は次期総選挙における国政進出を宣言し、候補者選定に向けて「維新政治塾」を開設するとともに、国政におけるマニフェストともいえる「船中八策」策定を発表するなど、大阪発の自治と民主主義の危機は全国に波及する情勢にある。現実に進行しつつある大阪における自治の危機の実態を分析し、これに対抗しうる広範な市民運動の創出に献身することが、一度はローカルポピュリズムの台頭を許した大阪の民主主義勢力の責務である。以上の認識に立ち、以下の代表的な論点に絞って、大阪における自治の危機の実態分析を行う。
橋下市長は、大阪市の最高意思決定機関として、市長、副市長、政策企画室長、政策企画室大都市制度改革監、市政改革室長、総務局長、財政局長及び計画調整局長を構成員とする(市長が必要と認めるときは、それ以外の者に会議に出席を求めることができるとの規定あり)「戦略会議」を設置した。
その下に「大阪市改革プロジェクトチーム」を設置し、①施策及び事業の見直し、②市民利用施設のあり方の検討、③補助金等の見直し、④人事制度及び給与制度の見直し、⑤経営形態の見直し、⑥公共事業の見直し、⑦外郭団体の見直しなど行政改革課題の検討と⑧局や室から自立した自治体型区役所の実現支援を担うこととした。また、「区長会議」を設置し、大阪都移行に向けての「区割り」案の検討も含めて、区制改革に取り組むこととした。なお、当初2012年4月から任命される予定であった公募区長(※1)は、応募者が多数に上ったため、8月任命とされた。
しかし、これに加えて設置された「府市統合本部」については、その位置づけが極めて不明確と言わざるを得ない。府市統合本部は、知事を本部長、市長を副本部長とし、①大阪にふさわしい大都市制度のあり方、②いわゆる「二重行政」に関するあり方、③府市が共通で取り組むべき重要事項の方針決定、④知事と市長が指定する事項、を所掌することとなっている。つまり、両首長が指定すればあらゆる政策課題を府市統合本部の課題とすることができる仕組みになっている。例えば府の「教育基本条例案」や「職員基本条例案」の策定など府と府教委において整理が図られるべき事項も統合本部に持ち込まれ、大阪市長や特別顧問までが、府教委の教育委員や府総務部の管理職員を相手にこれらの課題について言及(追及?)する姿は、自治体の独立性を否定して憚らないあまりにもグロテスクな光景であった。
本来、「大阪都」構想に向けた大都市制度のあり方検討など、府市統合本部を設置して検討することが認められるべき課題においてすら、現状においては府と市というそれぞれ別個の自治体である限り、まずはそれぞれが主体的に検討し、当然その過程でそれぞれの議会がチェック機能を発揮し、その上でのすり合わせするのが二元代表制の下、議会を有する自治体同士の連携のあり方であろう。にもかかわらず、府議会、市議会が参画するいわゆる「大都市制度協議会」設置条例案すらそれぞれの議会で審議されていない段階から、統合本部の下に多くの特別顧問や特別参与を任命し、都市魅力やエネルギー政策など個別政策に関わる戦略会議を設置し、府市の予算を活用して検討を進めるなど、両首長に付与された権限、権力からの逸脱である。そもそも「大阪都」構想は、「都」という名称がどうなるかは別にして、「府」に広域行政の権限を集中し、政令指定都市たる大阪市は解体し8ないし9の「特別自治区」にするというのであるから、市長の責務はもっぱら円滑に市を解体して「特別自治区」を準備することにあるはずだ。府市統合本部の場を借りて市長が広域行政のあり方政策に権力を行使するのは越権行為であろう。
次に、両首長のガバナンスにおいて顕著な特徴となっているのが、特別顧問及び特別参与の多用である。2012年3月27日に公表された資料によると、大阪市の特別顧問は17人、特別参与は39人の計56人に及ぶ。うち、府市統合本部関係(したがって府兼務)の特別顧問が8人、特別参与が21人の計29人。人事関係の特別顧問が3人、特別参与が18人の計21人。区政関係の特別顧問が5人。西成特区構想関係の特別顧問が1人である。こうした大量任用に先立ち、二倍程度にまで報償額の増額がなされている。その結果、わずか3カ月で約419万円の報酬が支払われ、府議会においても上限設定の必要性などが議論になっている。
しかし、財政負担の問題より深刻な問題はその機能と人選である。そもそも特別顧問や特別参与の役割は、首長や所属長などに政策的専門的助言を行うことで、直接政策を決定したり職務を指示したりする権限は与えられていない。しかし、新聞各紙も報じているように特別顧問や参与が本来の立場を超えて政策決定に関与しすぎであるとの批判が府議会においても指摘されている。また、特別顧問の野村修也弁護士は「第三者調査チーム」を標榜し、政治活動・組合活動に関する職員アンケートを実施したり、人事関係特別参与らとともに、管理職員のメールチェックや様々な所属から人事関係情報の提出を指示するなど、明らかに「助言」の範疇を超えた、「職員基本条例案」に規定されているがそれ自体違法の可能性がぬぐえない「人事監察委員会」を先取りするような活動を行っている。
次に、特別顧問や参与の人選について見てみると、元国家官僚とコンサルタントが多いことに驚かされる。元国家官僚は特別顧問17人中5人を占めそのうち経産省(通産省含む)出身が3人、運輸省、外務省が各1人である。また、コンサルタント出身者は特別顧問17人中4人を占めそのうち2名はマッキンゼー出身者である。特別参与におけるコンサルタント出身者は39人中12人を占め、うち7人がマッキンゼー出身者である。これらの人物の過去の活動や発言を見る限り、新自由主義的な傾向が極めて強い者たちである。特別顧問や特別参与の人選は首長の裁量に委ねられるべきものの、これだけの人数に及び、かつ活動内容が専門的「助言」を大きく逸脱している場合、彼らが府市の政策決定において具体的に発揮している権限や権力の正統性について大きな疑念を指摘しなければならない。こうした政策決定システムの変質は、「民」の論理を錦の御旗としながら、公募区長の着任や「職員基本条例案」による管理職の公募による任期付き採用が進めば、さらに加速される情勢にある。その際、市民と行政の対話の中で形成されてきた各施策推進に関わる市民参加、当事者参加システムが守られる保障やそれをチェックしうる権限はどこにも存在しない。
橋下市長についてはポピュリストであるとの批判があるが、メディアを活用し大衆の不満をばねに支持を集める段階はすでに脱し、大阪市役所や市議会、公務員組合を「敵」としてシンボル操作しながら、二元代表制による地方自治制度の基盤を民主的手続きすら逸脱した形で棄損、破壊する段階に突入している。これは政策決定における民主的正当性の逸脱以外の何物でもない。そのことを広く市民に周知し、危機感を共有するとともに、対抗した運動の必要性を訴えなければならない。
両首長は当選直後に政府関係者及び各中央政党幹部と会談のため上京し、「大阪都」構想実現に向けた協力を要請するとともに、協力を得られない場合は次期総選挙に維新の会として候補者擁立も辞さない構えを示した。その後、12月27日に開催した第1回府市統合本部会議において、当面の獲得目標として、①第30次地方制度調査会の答申(2013年8月を想定)で大都市制度改革のための自治法改正を位置づけさせる、②法改正(2013年通常国会での改正を想定)後、速やかに新たな大都市制度を実施できるよう制度提案を府市でとりまとめ、議会を含めたコンセンサスを得る(2014年夏ごろ住民投票、2015年4月新制度移行を予定)、とした。また、「当面のロードマップ」において、「大阪にふさわしい大都市制度推進協議会(以下、「協議会」と略)」設置条例案を大阪府議会、大阪市議会、堺市議会の2月議会で提案・議決を図り、4月に「協議会」を設置するとともに2011年度内に地方制度調査会への協議をスタートさせるとした。
「協議会」設置条例案は、大阪府議会においては、2月23日に知事提案され、3月23日の本会議で維新の会、公明ほかの賛成で可決成立した。大阪市議会においては、3月2日に総務財政委員会に付託され、3月27日の委員会、28日の本会議において、維新の会、公明の賛成で可決成立した。しかし、竹山堺市長は3月3日、協議会への不参加を正式表明。維新の会は堺市議会に「協議会」設置条例案を議員提案したが、3月12日の総務財政委員会及び3月23日の本会議で否決した。以上により、4月から「協議会」は設置されたが、政令指定都市である堺市は不参加での発足となった。
橋下市長は2月26日、地方制度調査会に出席し「大阪都構想」の説明を行った。その中で橋下市長は西尾勝会長の質問に答える形で、「新たな区」にも区議会を設置することを明らかにしたものの、再編後の「新たな広域自治体」及び「新たな区」の具体的な事務配分や税源配分、財政調整のあり方などの詳細な制度設計は示さなかった。また、住民投票については、実施する考えを明らかにしたものの、「区割りの問題で必要」との認識であり、区割り案について区ごとに反対が上回るところがあっても、大阪市民全体で賛成が上回れば確定できるとの考えを示しただけで、「都」制度移行=「大阪市」解体、「新たな区」への分割自体の是非を大阪市民という単位で意思表示できるか否かについては明確にしていない。
一方、中央政党の動きは急である。みんなの党は3月9日に地方自治法改正案を国会に提出。政令指定都市または政令指定都市と隣接近接する市町村で人口70万人以上であれば、市町村を廃止、特別区を設置し、道府県を都とすることができるとし、道府県及び関係市町村で「都・特別区設置協議会」を設置し、都と特別区の事務配分、財源配分と財政調整の案を策定し、各議会での議決があれば、住民投票すら要しない改正案となっている。一方、自民党は公明党と協議しつつ、大都市問題に関するプロジェクトチームが地方自治法改正案(特別区設置)のとりまとめ作業を進めていたが、4月18日に自公案として衆院に提出した。
内容は、総人口100万人以上とし、特別区移行協議会を設置し、①特別区の設置時期、②特別区の区域、③都道府県と特別区の事務分担、④都道府県と特別区の税源配分及び財政調整、⑤特別区の議会議員定数、⑥都道府県及び特定市町村の財産及び債務の継承に関する事項、⑦都道府県及び特別市町村の職員の引き継ぎに関する事項、⑧その他重要事項を定めた「特別区移行協定書」を策定し、都道府県およびすべての特定市町村の議会での議決の後、住民投票を実施することとしている。住民投票においてすべての関係市町村でそれぞれの過半数の同意があった時移行協定書は確定するものとしている。
また、民主党の地域主権調査会・大都市制度等ワーキングチームは4月11日に開催された総会において、「大都市地域における地方公共団体の設置等に関する特例法案(仮称)骨子(案)修正版」を提示し、地方自治法の改正は行わず、人口200万人以上の大都市(及びこれに隣接する市町村)で、当該市町村議会での議決と当該市町村での住民投票(府県全体の住民投票は不要とする)を経て「特別区」の設置が可能となる「手続き法」を今国会に提案し議員立法をめざす方針を示した。
これに対して維新の会は当初中央政党の動向を「心強い」などとしていたが、松井知事は3月29日の府市統合本部会議において、民主、自民案が国の関与が強いことを理由として府市統合本部で大阪都構想実現に向けて必要な法整備に向けた独自案をとりまとめ「大都市制度推進協議会」に示す考えを明らかにした。しかし、松井知事は4月17日、総務相との事前協議を義務付ける民主案より国の関与が少ないとして自公案支持を表明した。これを受けて民主党の前原政調会長は、ワーキングチームに国の関与を弱める修正を行うよう指示した。中央政党は維新の会の勢いに押されて国の関与を弱める方向で一本化に傾きつつある。ただし、松井知事は住民投票について規定のないみんなの党案についても評価しており、住民投票の行方にはなお注視が必要である。
現在開会中の第180国会は6月21日までの会期であり、一定の会期延長が見込まれるとしても、現在の国会情勢をみるなら、法案の成立はなお不透明である。仮に成立した場合、「大阪都」に中央政党が協力しないのであれば国政に進出するとしていた維新の会の国政進出の大義がなくなる。もっとも今や維新の会の国政進出の“大義”は何でもよさそうな勢いであるが…。一方で法改正により特別区の設置は可能となったとしても、地制調で西尾会長が指摘した事務分担や税源配分、財政調整など詳細な制度設計が無ければ実現はおぼつかない。つまりボールは大阪府市に投げ返されることになる。
第1回「協議会」は4月27日に開催された。協議会の構成は、知事・市長と府議・市議の計20名で全会派が参加した。議員枠は議席数に応じて維新8、公明4、自民3、民主2、共産1.維新会派の浅田議会議長は会長に選出されたため採決に加われず、両首長を加えても維新は9で過半数には満たない。第1回「協議会」では、自民党の委員が区割り案の早期提示を強く求め、橋下市長は時期の明言は避けたものの前倒ししての提示を約束した。また、5月17日に開催される第2回「協議会」に府市が共同で基本計画案を提示することとなった。
基本計画に盛り込まれると思われる事務配分や税源配分、財政調整、財産及び債務の継承問題などについては、区割り問題と同様に今後の大阪市民の生活に直結する課題であるとともに利害調整が難しい課題であり、「大阪都構想」が市民も注視する「協議会」での議論に堪えうるものかどうかが問われる。また、これらについて東京都・区のスキームと違うものをめざす場合には、別途個別法の整備が必要となり、特別法での対応となる場合には憲法95条(※2)に基づく住民投票が必要となるはずである。
維新の会は「大阪都」構想における特別自治区は、東京都・特別区と同じではなく、中核市並みの権限と財源を持つと公言してきた経過がある。「大阪都」構想が独自性の強いものであればあるほど、特別法による対応の可能性は高まる。憲法95条の規定は、今後示されるであろう「大阪都」構想の詳細な制度設計に対して、住民投票により住民自身が意思表示する権利を担保するものとして機能する。そのことを銘記し、運動を構築すべきであろう。
ところで、みんなの党の法改正案以外「都」という表現は用いられていない。地制調に示した維新の会の資料においても「新たな広域自治体」とされており、「大阪都」の名称は用いていない。自民党や民主党の案ではあくまで道府県と域内市町村の関係の話であり、政令市(及び隣接市町村)を解体して特別区としても、広域自治体としては「道府県」であることが言外に示されている。たかが名称の話かもしれないが、大阪府民・市民が内容の不明確な「大阪都」を支持した背景には、「都」という言葉の持つ国の中枢というイメージ、言葉の持つ発信力が大きく寄与していると考えられる。一方で、保守派の政治家や識者からは皇室のない自治体を「都」にはできないという、まさに名称への抵抗も表明され続けてきた。いずれにしても維新の会は名称としての「都」をあきらめるのか、「都」にこだわるのか、明確にする責任があるだろう。
維新の会が2011年9月の大阪府議会に議員提案し、継続審議となっていた「大阪府教育基本条例案」と「大阪府職員基本条例案」(※3)はW選後、知事提案の条例案とすべく、メディアも注視する中、両首長と府教委、府総務部との協議が府市統合本部の場で行われた。
「教育基本条例案」については、「教育行政基本条例案」と「大阪府立学校条例案」の2条例案に分割された。注目された知事が教育目標(※4)を定める点については、教育行政基本条例案に「教育振興基本計画」(※5)の案を知事が教育委員会と協議して(知事と教育委員会の意見が折り合わない場合は知事に決定権あり)作成する、ということで整理された。府教委は当初「基本計画」案を知事と教委が協議して作成するという案を提示したが、府市統合本部会議で特別顧問らの意見により修正された。
なお、維新の会の教育基本条例案における「教育目標」と教育基本法第17条に基づく「教育振興基本計画」との関係性について、厳密な整理が求められる。国の教育振興基本計画には「教育委員会機能の強化」、「地方公共団体に期待される役割」が盛り込まれており、地方自治体の計画はこの国の計画を「参酌」して定められなければならないとされている。国の計画と府教育行政基本条例、今後具体的に策定される府基本計画相互の整合性をどう図るかに注視が必要である。また、大阪府は基本計画を策定していないが、大阪市は既に2011年3月に今後10年間を計画期間とする基本計画を策定している。5年後には計画の見直しを図ることとされているが、公募市民の参画も得て策定されたこの計画によほどの瑕疵がない限り、それまでの一方的な見直しは許されないはずだ。
府立学校条例案では、教師の人事評価への相対評価の導入については見送られたが、校長が行う勤務成績の評定に授業に関する評価を含むものとし、授業に関する評価は生徒または保護者による評価を含めて行うこととされた。保護者の評価は「学校協議会」が教員の授業その他の教育活動に係る保護者からの意見を聴取し審議を行い、校長に意見を述べる形で実施される。教師の指導力の評価について保護者間で齟齬が生じた場合、学校協議会の意見が教師、保護者双方にとって大きな影響を与えるがゆえに、委員は極めて難しいかじ取りを任されることになる。「学校協議会」は、校長の意見を聴いた上で教育委員会が任命した委員によって構成される。つまり保護者組織である。保護者にそこまで求められるものなのだろうか。
維新条例案以来議論を呼んでいた校長の採用を原則公募とすること、3年連続定員割れの府立高校を再編整備の対象とすること、府立高校の学区を撤廃することなどは両首長の意向通り府立学校条例に盛り込まれた。これらを批判する論拠は改めて挙げるまでもないだろう。
職員基本条例については、任期付職員採用の積極活用(7条)、部長職の公募制(8条)、人事評価への相対評価の導入と2年連続最下位評価を受けた者の分限免職(15条)、法28条第1項各号(※6)による降任免職規定の明文化(25条)、職務命令に5回(同一命令については3回)違反した者は免職(教員にも適用)(27条)、人事監察委員会の設置(40条~45条)、などが両首長の強い意向を受けて盛り込まれた。
これら3条例案は、2月23日に府議会に上程され、3月23日に維新、自民、公明ほかの賛成により可決成立した。大阪弁護士会は3月19日、「大阪府の教育行政基本条例案、府立学校条例案及び職員基本条例案に関する会長声明」を発し、特に教育委員会を府知事の下におくような規定、教育振興基本計画策定を知事が行うこと、教育委員会に知事の下に設置する人事監察委員会の意見を考慮する義務を課すことなどは地方教育行政法23条(※7)違反若しくはその疑いがあると批判した。府労連は府労連全単組・支部代表者会議名で23日、府議会での可決を受けて抗議決議を挙げた。府教委生野照子委員長は条例案可決を受け、辞職。「条例策定にかかわった委員長として、けじめをつけたい。条例は運用しだいで破壊的にもなる。適正な運用を目指してほしい」と述べたという(産経新聞)。
大阪市におけるこれらの条例の扱いであるが、府と同様に市長提案の条例案とし、「教育基本条例案」は「大阪市教育行政基本条例案」と「大阪市立学校活性化条例案」に分割した上で、「職員基本条例案」とともに会期末ぎりぎりの3月28日に上程され、教育関係2条例案は文教経済委員会に、職員基本条例案は財政総務委員会に付託され、5月市議会での継続審議とされた。
大阪市は基礎自治体であり、教育においては、高等学校を中心に運営する府とは異なり、義務教育である小中学校を中心に運営している。これら3条例案が成立した場合、与える影響は府よりはるかに大きいことが予想される。加えて橋下市長は学校選択制の実施を打ち出しており、保護者の意見を聴取した上で、今秋を目途に区ごとに学校選択制導入の可否とその形態を決定するとしている。こうした動向とも相俟って、大阪市の義務教育制度は大きく変えられようとしている。
学校選択制については現在、各区で「学校教育フォーラム」が開催されるとともに、「熟議『学校選択制』」が4月26日からスタートした。フォーラムでは地域の市民や保護者から地域の一体性が喪失してしまうとの懸念が多く表明されており、「熟議」においても公募市民委員やPTA代表委員をはじめ慎重な意見が目立った。しかし、橋下市長は文教経済委員会で学校選択制について、「公募区長が判断するが、最終的決定権は僕。大方針で学校選択制は軸。それを踏まえた上で区長が『学校選択制はしません』と言ってきても維新の政策集の価値に従って説明する。選挙に裏打ちされた維新のマニフェストの意義は大きい」と答弁しており(※8)(「発言する保護者ネットワークfrom大阪」ツイッターより)、大阪市長自ら各区や市教委が設置した市民参加の場における議論を無視することを公言するという異常な事態となっている。まさに「民意」が民意を踏みにじる構図となっている。
さらに維新の会大阪市議団5月1日、突如「家庭教育支援条例案」を5月市議会に提案することを公表した。この条例案は親が子どもの教育に第一義的責任を有することを基本理念として、保護者に保育所、幼稚園等での「親の学び」カリキュラムの受講や一日保育士体験・一日幼稚園教諭体験の義務化、高校生以下の子どものいる家庭への保護者対象の「家庭用家庭科副読本及び道徳副読本」の導入、など行政が主権者である「親」に義務を課して「教育」する内容となっている。
また、「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度の発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因であると指摘され、また、それが虐待、非行、引きこもり等に深く関与していることに鑑み、その予防・防止を図る」(条例案第15条(※9))など、科学的な根拠を示さないまま親の養育態度に発達障害の原因があるかのような表現が繰り返し用いられている。発達障害に対する無理解と偏見に満ち溢れているとともに、発達障害の子どもを持つ親を追い詰める心ない条例案と言わざるをえない。この条例案に対しては公表直後から保護者らの抗議が殺到し、維新の会は5月7日、条例案を白紙撤回することを決め保護者らに謝罪した。しかしこのような著しい人権侵害の条例案を提案しようとした維新の会に対する不信は払拭されない。また、こうした教育観が教育関係二条例にも通底していることを改めて認識せざるを得ない。
次に、大阪市職員基本条例案についてであるが、労使交渉で大阪市労連が問題指摘を行った論点は、相対評価の導入規定、2年連続最低評価の者を降任、免職できるという規定、業務命令違反行為5回(同一業務命令の場合3回、教員にも適用)で分限免職という規定、民営化等による分限処分を可能とする規定(※10)など多岐にわたったが、市当局は労使合意に至らないままに交渉を打ち切って市会への提案を行った。
特に民営化による分限処分は、直接住民サービスを担う基礎自治体の職員を多数組織する労働組合である自治労として、断じて容認することのできないものである。この条文は、厳しい社会経済情勢の中で高まる市民の不満を公務員バッシングへと誘導し、分限免職となる公務員をいわば「見せしめ」、「いけにえ」とすることで、市民サービスの切り捨てという本質を隠ぺいするものでもある。しかもこの条文の具体化はいわば不可逆の過程であり、ひとたび民営化=分限免職されてしまった専門的職員集団は二度と公務員として公共サービスを担うことはできない。同時にこれらのサービスは市場によって提供されるべき「商品」と化し、市民の権利から永久に奪われてしまう。
改革プロジェクトチームが4月5日に事業見直しの具体案を提示したことにより、この条文の意味する恐ろしさが一層明らかになりつつある。例えば、橋下市長は大阪市音楽団の音楽士を分限免職にすると発言した(4月6日、読売新聞朝刊)。これは分限回避の努力をすることもなく分限免職を結論付けており、職員基本条例案が成立してもいない段階から、その条例すら逸脱した発言であり、任命権者としての雇用責任を一切踏まえない暴言である。加えて条例が成立すればこの条文を根拠に分限処分を乱発するぞという恫喝でもある。
府においては維新の会のみならず自公の賛成を得て条例が成立しており、大阪市議会においても3条例を阻止することは極めて困難な情勢にあるが、少なくとも市民に3条例及び維新の政治思想、政治手法の問題性、危険性を広く訴え、市民とともに公共サービスと自治、民主主義を守る運動を創造していく必要があるといえる。
橋下市長が就任直後に接した大阪市改革プロジェクトチーム(以下、PT)4月5日、「施策・事業の見直し(試案)」(※11)(以下、「試案」と略)を公表した。その内容は住民サービスを中心に104事業の見直しを行い、2012年度から3年間で総額548億円のカットを行うというものだ。市民生活に甚大な影響を及ぼすものであるが、ここでは各事業について詳細に触れることはできないので、4つの観点から総論的批判を加える。
第一に、これは昨年の統一自治体選挙及び11月のW選挙において維新の会候補が公約としたことに対する明白な公約違反であるということだ。維新の会は統一自治体選挙でのマニフェストにおいて「特別区(自治区)は、現在大阪市が提供している住民サービスを全て(敬老パス制度を含む)を提供します」と明記しており、W選マニフェスト別添の「大阪都構想推進大綱」には「特別自治区には中核市並みの財源を保障する。現在大阪市で提供している住民サービス分の財源は特別自治区に保障する」とされている(※12)。「現在」とは当然選挙時点での「現在」であり、この公約は「大阪都構想」を推進することによって「現在」の住民サービスを切り下げることなしに大阪の財政再建を実現することを約束したものである。それができないのであれば、公約違反に対する釈明と謝罪がなければならない。
第二に、ここまで急激な住民サービスの見直しを行わなければならない財政的根拠が薄弱であるということである。「試案」は「今後の財政収支概算(粗い試算)」(平成24年2月版)(※13)において向こう10年にわたり年間約500億円の通常収支不足が見込まれることを施策・事業見直しの主要な根拠としている。しかし、この「試算」はこれまでの大阪市の中期的な財政収支概算と前提を異にしている。通常収支の均衡をめざすとして、いわゆる補てん財源(不用土地売却代、都市整備事業基金(除く特定財源分)、公債償還基金(剰余分)、退職手当債)を活用しない収支としたというのである。この理由を「将来世代に負担を先送りしないため」としているが補てん財源の活用がどうして将来世代に負担を先送りすることにつながるのかについて明確な説明はない。
一般に大阪市の財政状況を見る場合、財政健全化法の4指標のうち実質赤字比率が早期健全化基準(11.25%)や財政再生基準(20%)を超えていく危険性が高かったがゆえに、2018(平成30)年度を目途に累積収支不足額をどう圧縮していくかという観点から検討されてきた。ちなみに平松市長就任翌年の2008年5月の概算によると2009年度以降経常経費の削減が進捗しない場合、2011年度には早期健全化基準(△837億円)を、2012年度には財政再生基準(△1,489億円)を上回る累積赤字を生じるというものであった。
その後大阪市は財政再建の取り組みを強め、2010年度決算においても単年度収支で黒字を維持するとともに、この1年間をとっても「中期的な財政収支概算(平成23年度予算版)」において約1,200億円と見込まれた2018(平成30)年度の累積収支不足額が、今回の「試算」の「参考資料」によると約900億円にまで圧縮している。市民サービスを維持して財政再建が可能であることをいみじくも平松市政は示したともいえる。にもかかわらず橋下市長は、数字のトリックともいえる手段を弄してまで赤字額を膨らませ、それを理由に住民サービスの大幅な見直しを強行しようとしている。市民は監視を強めなければならない。
第三に、施策・事業見直しの「基本的考え方」に掲げる「現役世代への重点投資」というフレーズが誇大にすぎるということである。確かに高齢者や障害者に対するサービスの見直しは熾烈を極めている。敬老パスの半額自己負担化、上下水道福祉措置の廃止、「食事サービス事業(ふれあい型)」の廃止、「老人憩いの家」運営助成金の廃止、高齢者の利用が多い「赤バス」の運営費補助の大幅カット、老人福祉センターの削減(28か所→18か所)、弘済院の養護老人ホームの廃止及び特別養護老人ホームと付属病院の廃止または民営化など。しかし、ことさら「現役世代」に「重点投資」されるわけではない。確かに子どもへの通院医療費助成制度の中学生までへの拡充(現行、就学前まで)や中学校給食の実施、妊婦健康診査の公費負担額の拡充など、一定の制度充実は見られる。しかし、「保育ママ事業」の導入や「塾代助成事業」の施行実施などは、保育の質の確保の観点や教育施策としての妥当性など政策の是非について議論のあるところである。
一方、国民健康保険の低所得者に対する保険料3割減免の廃止と出産一時金引き下げ、新婚世帯向け家賃補助廃止、保育料の値上げ(非課税世帯からも保育料徴収)、1歳児保育の保育士配置基準改悪(5:1→6:1)、食材配送費を保護者負担とすることに伴う学校給食費の値上げ、学童保育・子どもの家事業への補助廃止、いきいき放課後事業の有料化など、現役世代にとっても、とりわけ低所得者層における負担増が目白押しとなっている。
そもそも日本の社会保障制度が高齢者に手厚く若年層に薄いとの批判は、社会保障制度に占める年金と医療の割合が高く、福祉や雇用への配分が少ないという国レベルの制度設計への批判であり、主にその「少ない」福祉を担っている基礎自治体の施策に取り立てて高齢者優遇があるわけではない。橋下市長はこの問題を高齢者を「既得権益層」に仕立て上げるロジックに利用し、高齢者がさも過度の福祉サービスを受けているかのように喧伝しその見直しを正当化しているのである。その一方で、現役世代にも負担増を強いている。現役世代は騙されてはいけない。
第四に、市民が活動するための“場”や地域を支える公共人材の切り捨て、コミュニティを積極的に破壊する政策を進めようとしていることである。具体的に列挙すると、区民センター・老人福祉センター・各区屋内プール・各区スポーツセンターの箇所数削減、子育ていろいろ相談センターの廃止、市民交流センターの廃止、サテライトでの教育相談事業の廃止、不登校児童支援の通所事業の縮小、「学校元気アップ支援員」の有償ボランティア化(現状は非常勤嘱託職員)、長居障害者スポーツセンターの廃止、舞洲障害者スポーツセンターの宿泊施設廃止、青少年野外活動センター(3か所)の廃止、総合生涯学習センターおよび市民学習センター(4か所)の廃止、男女共同参画センター「クレオ大阪」(5か所)の廃止、キッズプラザの廃止、環境学習センター「生き生き地球館」の廃止、コミュニティ協会・社会福祉協議会への補助削減、大阪フィルハーモニー協会・文楽協会への助成金削減、地域生活支援ワーカーの削減(128人→24人)、地域ネットワーク推進員(小学校区単位)の廃止などである。これらの施設や専門的人材を必要とする事業が現在コミュニティにおいて果たしている機能を検証し、廃止や縮小が市民生活と地域コミュニティに及ぼす影響を具体的に示し反論していく必要があるだろう。
この「試案」に対しては公表直後から、関係市民から反対の声が多くあげられている。大阪市議会市政改革特別委員会は5月1日、「試案」についての審議を行ったが、与党である維新の会も含めて全会派から異論が噴出した。こうした状況を受けて、大阪市は4月16日から19日にかけて行った「試案」についての各局・区とのオープン議論を踏まえて策定するとしていた「市政改革プラン(素案)」を5月11日に公表し、その中で一定の原案修正を行った。修正内容の主な項目は、区民センター34施設の存続、障害者スポーツセンター2施設の存続、学童保育運営費助成制度の存続など。青少年野外活動施設は3施設中1施設のみ存続。老人いこいの家は助成廃止から半額助成に緩和された。敬老パスは試案の見直し案3案に公明案を含め5案併記とし、結論は先送りされた。「赤バス」助成も区長会で検討することとされ、先送りとなった。
一方、釜ヶ崎地域の医療の拠点である大阪社会医療センターの見直しは実施年度が2015年度に先延ばしされ、耐震補修への対応も含め府市で協議とされたものの、診療所機能への特化の方針は残された。「子どもの家」事業は廃止こそ免れたものの学童保育事業に統合されたため補助金は現行の半分程度となる。このまま強行されれば、生活に困難を抱える子どもたちや障害を持つ子どもたちを多数受け入れてきた「子どもの家」にとって大変な打撃である。その他の項目は基本的に「試案」通りの見直しが踏襲されている。「クレオ大阪」は存続を求める声があがっているが、修正されなかった。これが強行されれば大阪市(と同時に大阪市解体の後は特別区)は男女共同参画センターを一つも持たないことになる。大阪府内の市も多くが男女共同参画センターを設置している。橋下市長は知事時代に府立青少年会館とドーンセンターの見直しを強行し、女性政策や青少年政策に冷淡であることは知られているが、基礎自治体における女性政策についてどう考えているのか。
この「素案」については5月29日までパブリックコメントに付されている。その後、6月中に「市政改革プラン(案)」を公表し、6月下旬ごろにプレス発表される「補正予算(本格予算)案」にその内容を反映させるとしている。自治労も関係市民団体とも連携し、パブリックコメント等必要な対応を行わなければならない。
今回の一連の施策・事業の見直し過程で、私たちが注意しなければならないのは橋下市長の「仮装の利益」という言論テクニックだ。中島岳志氏は橋下市長が2005年に出版した「図説・心理戦で絶対に負けない交渉術」(日本文芸社)という書籍からこう分析する。
橋下氏は、はじめにハードルを高く設定した提案を掲げます。もちろん、この提案の中には「譲歩できるもの」と「譲歩できないもの」が含まれています。
突然、提案を突き付けられた利害関係者は、当然反発します。そして、橋下氏が提示した提案に依拠しながら、問題点を列挙し抵抗します。
しかし、この時点ですでに勝負は決しています。それは橋下氏の舞台に乗ってしまっているからです。橋下氏の提案に基づいて交渉がスタートさせることこそが、彼の「交渉テクニック」だからです。
橋下氏は、ここから「譲歩できるもの」のカードを切っていきます。そして、このカードの付与によって「仮装の利益」を分配していきます。「実際には存在しないレトリックによる利益」のため、橋下氏側にダメージはありません。「譲歩の演出」によって相手が利益を得たと錯覚させることが目的であり、この錯覚を駆使することによって「本当の利益」を獲得していくのです。
結果、相手はあたかも「利益を得たかのような感覚」を持ちながら、実際は重要なものを損なっているという結果が生じます。これが橋下氏が繰り返し用いる政治手法です。(※14)
「素案」の評価について新聞各紙は、橋下市長が市民や議会の反発を受け、一定の「譲歩」を行ったと肯定的に報じるとともに、そのことにより歳出削減が約60億円圧縮され「収支均衡遠のく」(毎日、日経)ことを問題視している。「『譲歩』を演出、橋下流交渉術」(毎日新聞)など、施策見直しの進め方への一定のコメントも見られるものの、「収支均衡」が至上命題化するというレトリックにはまり込んでいる。危険なのは見直しに反対の声をあげる市民がこのレトリックで「既得権益」層へと追いやられていくことだ。女性も、障害を持つ子どもとその家族も…。もう一度見直しの対象とされた各施策に立ち戻り、本当に「無駄」があるのか、見直しによる市民への深刻な影響はないのか、冷静に分析されなければならない。とりわけメディアの公平な報道と市議会での慎重な議論を期待したい。
さらに大阪市は5月上旬に現業職員の給与水準見直し等による人件費削減案と外郭団体改革案を追加公表するとしている。橋下市長が狙っているのは「住民サービスか、現業職員や公共サービス労働者の雇用や賃金か」という二者択一の対立構図を描きつつ、どちらの見直しをも強行することである。しかしこれらは対立するものというより公共サービスの表裏をなすものである。市民と公務労働者が公共サービスを守るために連帯して取り組むことこそが求められている。
以上、両首長と維新の会に特徴的な「統治」手法の問題、「大阪都」構想実現に向けた活動と問題点、維新の会が選挙の争点として訴えた「教育基本条例案」と「職員基本条例案」のその後の展開と問題、大阪市改革PTが公表した「施策・事業の見直し(素案)」の問題点について、批判的分析を加えた。
もちろん両首長と維新の会の府市運営の問題点はこれのみではない。ここではあえて詳しく触れなかったが、後にねつ造であったことが発覚した「リスト」を巧妙に活用し、市議会やマスコミで取り上げ市民の組合不信を煽りながら、「組合活動アンケート」「支部便宜供与スペースの撤去」「庁舎内組合事務所の供用廃止」「労働協約を無視したチェックオフの廃止通告」など、不当労働行為のおそれの強い強引な手法による労働組合への支配介入、組合つぶしの攻撃を行っている。このことは当該労働組合の問題のみならず、社会的存在としての労働組合への攻撃として看過することのできないものである。
さらに維新の会が国政進出に向けて策定を進めている「船中八策」は、市場原理主義的な政策が羅列されるとともに、道州制、首相公選制、参院廃止など憲法改正に関わる事項を公約化し、憲法改正要件の緩和すら提唱する露骨な改憲策動でもある。
橋下市長は4月2日、大阪市の新規採用職員の発令式で、君が代斉唱の際の姿勢を注意し、「皆さんは国民に対して命令をする立場。だからしっかりルールを守らないと命令なんか誰も聞いてくれない」(朝日新聞)と訓示したそうである。自治体労働者は「国民に対して命令する立場」ではない。しかも上意下達、上命下服の「ルール」を守り、トップの発する命令を、無批判に、思考を停止して、唯々諾々と市民に「命令」する者であってはならないはずである。
最後に一つの文章を引用する。
独裁制度が優位に立つための第一条件は、民主国家の麻痺、すなわち古い政治体制と根本的な変貌を遂げた社会のあいだに、どうにもならないきしみが生じた状態。
第二の条件は、国家の虚脱状態が野党に最大限の利をもたらし、新しい秩序を生み出しうるのは野党のほかにないと大衆に信じさせて支持を集めること。
そして、第三の条件は、その野党にも深刻な事態に対処する用意がないことが判明し、すでに存在する混乱をさらに悪化させて大衆の期待をことごとく裏切る結果が生じること、以上です。これらの条件がそろいもうだれの手にも負えなくなったとき、独裁政党が登場する。そうすれば、よほど愚かなリーダーを頂いていない限り、この党が権力を掌握する見込みはかなり高くなりますね。ながら、実際は重要なものを損なっているという結果が生じます。これが橋下氏が繰り返し用いる政治手法です。(※15)
この文章は現在日本の政治分析ではない。ファシズム時代のイタリアに生きたイニャツィオ・シローネが1930年代亡命先のチューリッヒで執筆した文章である。また、現在日本との類似性を示したいが故に挙げたものでもない。独裁政党の登場を許すのは天才的リーダーの存在ではなく、市民の政治への失望である。市民の政治への失望を許す政治的努力の欠乏であり、失望に身を委ねてよしとする市民自身の政治的退廃である。私たちは不都合な事実も含め市民の知る権利が保障され、例え効率が悪くとも、また特効薬的な解決策が見当たらず、それぞれが少しずつの我慢を強いられる結論しか導けなくとも、粘り強い民主的な討議の中で合意形成を図り、これをみんなで尊重していくことができるような市民自治、市民社会の確立こそが、独裁の登場を抑止しうると考える。
これは、そのことを示唆する文章として引用した。いま、大阪府・市の市民は立ち上がりつつある。それぞれの動きは小さくとも、教育について保護者自ら語り、住民サービスの切り捨てに対して抗議の声をあげ、しかも単に反対するのではなく、公共サービスがどうあるべきかを主体的に考え合意形成を図ろうとする運動が生まれつつある。そこに参画する市民は労働組合の正当な権利主張にも耳を傾けてくれる人たちでもある。私たち労働組合もこうした市民の動きに共感し、語り合い、つながっていかなくてはならない。自治や民主主義はそこから生まれうるし、そこからしか生まれえない。自治労大阪府本部は「今そこにある」大阪の自治の危機を直視し、その克服に向けて、市民とともに、積極的かつ具体的、実践的な地方自治研究と活動に努めるものである。
※論文全文をダウンロード→ 『 大阪における自治の危機の現状とその克服に向けて』(PDF)