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[道州制の論点]
急浮上してきた道州制/背景にあるのは地方分権

大阪地方自治研究センター 田上 雅章

道州制の背景

 地方自治制度は、明治以降、法的性格など変化したが、都道府県・市町村の二層制を基本としてきた。しかし近年、歴史も古く定着している都道府県を、現在の47から10数前後に再編成する道州制が政治課題として急浮上してきた。

 50年代、道州制議論は関経連や政府機関でとりあげられたが、その後永く沈静化してきた。それが再燃したのは、03年総選挙で道州制導入を自民党や民主党がマニフェストに掲げ、06年、第28次地方制度調査会の「道州制のあり方に関する答申」を経て、安倍首相がその実現をうたったことによる。では、なぜ、道州制が内閣の課題となるのか、その背景には、この間の地方分権の動きがある。

道州制の概要

 28次答申は、現行都道府県制度では環境変化に対応できず、分権の担い手としてふさわしくないとし、三つの理由をあげ道州制導入を提言している。

 第1に、都道府県から市町村への事務移譲のための分権の受け皿づくりとして、国が推進した市町村合併により、全国市町村数3232団体が05年度末には1821団体に激減、その結果、都道府県の役割と存在意味が問われる状況に直面したことを指摘する。

 これは人口規模・財政能力などを基準に、一般市以上に事務権限を都道府県から移譲される以下の大都市制度の適用市、指定都市(すべての対市民サービスを実施できる事務権限を持つ市)、中核市(前者から児童相談所の設置などを除く市)、特例市(前者から・民生・保健衛生などの事務を除く市)の増大にあらわれている。大阪府内では、堺市が政令市になるなど、大都市制度の適用市の人口は府内人口の73%を占め、大阪府の役割が問われているのである。

 第2に、答申は都道府県域を超えた広域行政課題の増大を指摘する。

 複数の都道府県が連携し「環境規制」「観光振興」などの取り組みが行われているという。廃棄物最終処分場として、関西2府4県・111市町村等の出資による「大阪湾フェニックスセンター」などがその事例であろう。グローバル経済化への対応を含め、従来の都道府県による遅々とした対応では迅速性や総合性などに欠けるとしている。

 第3に、答申は「地方分権改革の確かな担い手」の構築を提起するが、これが道州制を意図する核心部分である。

 2000年の「地方分権一括法」の施行で改正地方自治法では、分権を推進するために、国が担うべき役割を3点に限定した。「(1)国家の存立にかかわる事務(外交・防衛)」「(2)全国的に統一することが望ましいルールに関する事務(生活保護基準など)」「(3)全国的な規模・視点で行わねばならない施策・事業に関する事務(年金や高速道路網など)」だが、答申は「(2)、(3)の区分に属する事務」で「現状でも都道府県に移譲すべき事務が多くある」と指摘する。これは、各府省官僚・族議員が事務の自治体移譲に抵抗しているためだが、その弊害は大きい。

 全国知事会は、国が大きな権限による自治体への「過剰な関与・規制」は、自由度を拘束し「行政サービスの低下」と「国民の生活向上を阻害」していると厳しく批判している。つまり、道州制構想は、国からの権限移譲を一挙にすすめるねらいをもっているのである。

 以上から、答申は都道府県制度改革を「国の形の見直し」と位置づけ、国の役割の「重点化」と内政は「広く地方公共団体が担うことを基本」とした「新しい政府像を確立」するために「道州制の導入が適当」としている。

 なお、道州は、住民の直接投票による首長・議員(議会)を設置するとし、首長に関して、その権限が大きいためであろうが、多選禁止とした。また、導入手順は、(1)国が「予定区域」(北海道・沖縄県は一道・州)を示し、(2)都道府県は区域内市町村の意見を聞き、当該予定区域に関する意見(変更案など)を定め、国に提出、(3)国は、当該意見を尊重し区域に関する法律案を作成するとしている。

道州制への危惧

 以上が答申の概要だが、いくつかの危惧(きぐ)を感じる。

 今村都南雄中央大学教授(第27・28次地制調委員)は「市町村合併推進に」「あえて背をむけ」「あるいは、合併路線を断念せざるを得なかった」「小規模市町村」を支援する仕組みを「なおざりにして、広域自治体を論じることはできない」(「市政研究」№154)と言っているが、同感である。

 第2に、昨年制定の「地方分権改革推進法」(3年間の時限立法)による新たな分権改革が目前に迫っている。その中心課題は、自治体への国の関与・規制の縮小に向けた法令の見直しである。府省官僚・族議員の強い抵抗が予測されるなかで、道州制議論を持ち込めば審議3年の制約のなかで、中途半端な結果となり、国の地方への統制力を温存することになる。

 第3に、教育基本法改正などに見られる内閣の強いナショナリズムの色彩である。第2の問題とからめば、強大な権限をもつであろう道州は、国の意向を体した市町村の統制機関になりかねないのである。

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