社会的企業による就労支援活動の特徴と中間支援組織の役割

大阪地方自治研究センター 櫻井 純理

 =もくじ=

  1. はじめに
  2. NPO・社会的企業による就業支援活動の広がり
  3. 就業支援活動の特徴・意義と課題
  4. 中間支援組織に求められる役割と実態
  5. まとめ(課題と提言)

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はじめに

 本章の目的は、不安定な状態にある若者など就業(への移行)になんらかの課題を抱える人たちに対して、NPOや労働者協同組合等の社会的企業が行っている就業支援活動と、こうした活動団体に対して多様な支援を行っている団体の活動について、その現状と課題を明らかにすることである。したがって、前半では就業支援活動を行っている社会的企業の組織形態や活動種別を概観し(第1節)、具体的な事例に添ってそれらの特徴・意義と課題について述べる(第2節)。後半は、それらの社会的企業の活動に対して、資源の仲介やネットワーク化の支援等の活動を行っている中間支援組織(インターミディアリー)の実態を見ていく(第3節)。最後に、今後社会的企業による就業支援活動を促進していくために解決が求められる課題について、主に「現行の法律や行政の仕組みに内在する問題」という視角から考察を加えたい(第4節)。

1.NPO・社会的企業による就業支援活動の広がり

(1)調査先団体の種類と活動の拡大

 初めに、今回調査で訪れた団体の種類(組織形態)には、NPO、協同組合的組織(ワーカーズコープ、ワーカーズ・コレクティブ)、民法法人、商法法人、地方自治体がある(表1を参照)。NPOについては、広義の意味合いで法人格を持たない市民活動団体・ボランティア団体、さらには公益法人なども含む場合があるが、今回の調査先は特定非営利活動促進法(以下、NPO法)によって認証された「特定非営利活動法人」である。次に、ワーカーズコープとワーカーズ・コレクティブはいずれも、そこで働く人たちが自ら出資をするとともに経営のあり方を決定する協同組合型の団体である。実際に活動を行う個別団体の組織形態としては、活動の内容や規模などに応じてNPO法人、企業組合法人、社会福祉法人、みなし団体を使い分けている。

 民法法人3団体はすべて財団法人だが、京都市ユースサービス協会は特例財団法人、地域公共人材開発機構は一般財団法人、京都地域創造基金は公益財団法人である。商法法人では(株)パソナグループが行っている「仕事大学校」について、また、地方自治体関係では京都府で市民活動団体・地縁団体等との協働事業を担当している府民力推進課に話を聞いた。

 NPO、協同組合、財団法人は、行政サービスの外部委託が進むなかで、公共サービスを提供する重要な主体となりつつあり、その活動は量的・質的な広がりを見せている。NPOについては次項で見ることとし、ここでは労働者協同組合と民法法人の活動について簡潔に触れておきたい。

 ワーカーズコープは日本労働者協同組合連合会センター事業団(以下、労協センター事業団)が展開している活動で、1970年代の中高年・失業者向けの雇用対策事業にルーツを持つ(労協センター事業団の設立は1987年)。その後は病院の総合管理(清掃・メインテナンスなど)、生協の物流センターの仕事、ヘルパー講座の開催などに仕事を広げてきた。介護保険制度がスタートした2000年代からは全国に「地域福祉事業所」を展開している(永戸2008および日本労働者協同組合連合会2009)。また、指定管理事業を積極的に受託し、高齢者・障害者福祉サービス、子育て関連施設、学童クラブ、児童館など多様な公共サービス事業を行っている。

 就業支援に関連した活動としては、若者自立塾(1か所)、若者サポートステーション(8か所)の運営実績ももつ。また、2000年代に入ってからは、雇用・能力開発機構や都道府県からの委託を受けて、若年者向け職業訓練を実施することも増えてきた。労協センター事業団全体の事業高(2007年3月期)は約93億円で、就労人員は4431人となっている(永戸2008)。今回の調査で訪れたのは3か所の地域福祉事業所と、労協センター事業団中部事業所が開設した自立支援センター(障害者向けの就労継続・就労移行支援を行う団体)、そして労協活動全体の本部機能を担っている日本労働者協同組合連合会である。

表1 調査先団体の種類と就業支援活動の内容

 次に、ワーカーズ・コレクティブは消費財の共同購入活動を展開してきた生活クラブ生協が、1982年のデポー(小売販売事業)を皮切りに始めた協同組合活動である。組合員の女性たちが中心になり、家事援助・介護や生協の業務受託、子育て支援、弁当・食事サービスなどの事業を中心に事業を拡大してきた。就業支援活動の面では、障害者や若者の体験実習の受け入れやメンバーとしての経営・就労への参加を通じて関わりを広げてきている。2007年には、連合組織であるワーカーズ・コレクティブ・ネットワーク・ジャパン(WNJ)に加入するワーカーズ・コレクティブは600団体にのぼり、メンバー数は17317人、事業高は約136億円に達している(山口2009を参照)。

 民法法人(社団法人・財団法人)については、2008年12月1日に公益法人改革関連三法が施行され、従来の公益法人は自動的に特例民法法人となった。新制度の下で、特例民法法人は5年以内に一般法人か公益法人への移行を選択することとされており、公益法人への移行認定は内閣府もしくは都道府県が行う。今回の調査先では、京都地域創造基金が京都府で第1号の公益(財団)法人として認定を受けている。2009年1月に発足した地域公共人材開発機構は、一般財団法人として設立された。また、京都市ユースサービス協会は2010年度の前半をメドに、公益財団法人への移行申請を行う予定である。

 民法法人として就業支援活動に関わりをもつ団体がどの程度あり、具体的にどのような活動をしているのかは、あまり明らかではない。総務省の『公益法人白書』(2008年度版)によると、公益法人設立の目的として「職業・労働」を挙げている団体は2100団体(8.3%)あり、その内訳で多いのは都道府県所管の社団法人1284団体である。ただし、地方自治体が出資している民法法人に限って言えば、2009年4月に行われたアンケート調査(有効回答2485件)において法人の主な事業分野が「職業・労働」であると回答した法人は、30団体だけであった(共同研究・自治体公益法人調査委員会2009参照)。そのなかには、シルバー人材センターや障害者雇用支援センターとならび、若者向けの就業支援を業務内容に含む団体もいくつか存在している(ふるさと島根定住財団、鹿児島県雇用支援協会、北九州勤労青少年福祉公社など)。

(2)就業支援活動を行うNPO

 では、NPOによる就業支援活動の現状はどうか。NPO法は1998年に制定・施行され、そこではNPOを「別表に掲げる活動に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするもの」と規定している。別表は活動の種類を示したもので、2003年の法改正により、現在では第1号~第16号の活動および第17号「前各号に掲げる活動の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動」の17種類が掲げられている。就業支援に関わる活動を行うNPOは、第15号「職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動」の中に含まれていると考えられる。

 2009年(9月30日現在)現在のNPO数は約38400で、そのうち定款に第15号の活動を記載しているNPOの数は7312ある(ただし複数回答である)。したがって、NPO全体の約19%は定款上、こうした活動を行うとしていることがわかる。表2・図1に示したように、NPOの数自体では第1号「保健・医療又は福祉の増進を図る活動」や第2号「社会教育の推進を図る活動」の比率が高いが、近年の伸びがもっとも高いのは第15号である。過去5年および過去3年の伸び率はそれぞれ410.6%、73.8%である。つまり5年前との比較では5倍に増加している(表2参照)。図1ではNPOの全体数が増加している影響を相殺するために、それぞれの活動を定款に掲げる団体数が全体に占める比率の推移を示した。第12~16号は2003年に追加された活動であるので、概して増加率が高いが、中でも第15号が高い伸びを見せていることがわかる。

表2 NPO数の推移(活動分野別)
  NPO数
(09年)
全体に占める割合 04年比
増加率(%)
06年比
増加率(%)
全体 38403 100.0 104.7 33.5
第1号 22181 57.8 107.9 33.4
第2号 17711 46.1 100.6 32.4
第3号 15734 41.0 112.0 35.5
第4号 12666 33.0 116.0 37.0
第5号 11014 28.7 102.0 34.7
第6号 2436 6.3 95.3 27.6
第7号 3827 10.0 130.1 39.1
第8号 6045 15.7 107.7 36.8
第9号 7503 19.5 78.5 27.9
第10号 3194 8.3 85.4 27.8
第11号 15689 40.9 116.0 37.0
第12号 3390 8.8 253.9 49.7
第13号 1880 4.9 304.3 63.2
第14号 5296 13.8 329.5 68.7
第15号 7312 19.0 410.6 73.8
第16号 2184 5.7 309.8 56.2
第17号 17618 45.9 119.6 36.3

出所:内閣府ホームページの「活動分野別認証数」に基づき作成

NPO全体に占める比率の推移(活動別)

 定款に記載しているだけでは、実際に第15号の規定に該当する活動を実施しているかどうかはわからないが、内閣府が実施しているNPOの抽出調査では、実際に行った活動内容についても尋ねている。その結果によると、第15号の活動を行ったNPOは2004年調査では8.3%だったが、2008年調査では11.3%に増えていた(内閣府国民生活局2008)。また、経済産業研究所が2006年に実施した別のNPO調査では、アンケート調査に回答した2669団体のうち、第15号を主たる活動分野としていたのは1.9%だったものの、それ以外に活動している分野としてこの活動を挙げた団体が多かった。たとえば、もっとも多い第1号(保健・医療または福祉の増進活動)を主たる活動分野としている団体では44%が、第1号の活動以外に第15号の活動を行っていると回答している(経済産業研究所・サーベイリサーチセンター2007)。

 こうした調査結果から、日本でのNPO活動自体が2000年代に入って増加するなかで、最近は就業支援の分野でもNPOが確かな存在感を示しつつあることがうかがえる。別の調査(コミュニティビジネスに携わる事業所の調査)では、回答した事業所(1480件)のうち30%近くが、若年者に対して雇用の場や就労体験の場を提供することに対して意欲を示している。今後、若者向けの就業支援を行う主体として、NPOはますます大きな存在となっていく可能性がある。

(3)活動の幅―居場所機能から一般就労移行支援まで

 では、NPOや協同組合等の社会的企業は、どのような就業支援活動を実施しているのだろうか。先に掲げた表1では活動内容を5種類に大別し、それぞれの団体が主にどの活動を手掛けているかを示した。重点が置かれている機能に◎印を、重点は別のところにあるがその機能も持ち合わせていると思われるものには○印を付けている。

 就業に至るまでの支援活動のなかには、まず、①支援対象者が自宅から外出して他者との接点を持ち、そこで気兼ねなく過ごせるような「居場所の提供」を行う活動がある。次に、②就労を望む対象者に対して、就労に向けた「教育訓練を行う活動」がある。後述するように、ここには各種のジョブトレーニング、企業での体験実習、トライアル雇用が含まれる。③の「柔軟な就労機会の提供」とは、短時間あるいは不規則なシフトであれ、その団体の業務を担う正式メンバーとして就労する機会を提供しているという意味である。④の「一般就労への移行支援」とは、正社員としての一般企業での就労を前提に、求人企業とのマッチングや就職活動として必要な準備活動を提供することを指している。訓練的機能も兼ねた柔軟な就労(③)から一般企業での就労へ移行する過程においても教育訓練が必要だと考えられ、④の「一般就労への移行支援」はそのような訓練も含むものとして捉えておく。

 調査先のNPOや労働者協同組合等が行っている就業支援活動にはかなりの幅があり、それは活動の対象者にも広がりがあることを意味している。つまり、これらの活動内容は①から④に向かうにつれて、一般企業でのフルタイム就業(=経済的自立)との距離が縮まっていく。長年ひきこもり生活を続けてきた人がまず他人と話をし、一緒に時間を過ごせるようになり(①)、働くために必要な基礎知識・社会性・自信を身につけ(②)、周囲と協力しながら仕事ができるようになっていく(③)。さらに一般企業での就労を望む人に対しては、そのための具体的な支援が行われる(④)。

 ただし、①~③の境界線は実際にはかなり不鮮明である。柔軟な就労機会を提供する「働き場所」であっても、その活動は個別の支援対象者の状態や意思に応じて、「教育訓練」としてもとらえられるし、「居場所」としての意義がより前面に出ることもありうる。実際、同じ活動に「就労」として携わっている参加者もいれば、一時的な体験実習や長期的な職業訓練の場として参加している人もいる。また、支援団体側の認識・活動の位置づけとしても、それぞれの活動の目的がそれほど明確に割り切られているわけではない。実は、こうした活動の一体性あるいは連続性こそに大きな特徴と意義があるように思われる。この点は次節で詳しく述べる。

 最後に、⑤の「他団体支援」は中間支援組織(インターミディアリー)として、他のNPOや労働者協同組合その他の社会的企業を支援する活動を意味している。支援活動は情報収集・提供、人材育成支援、調査研究、ネットワーク化支援、資金提供などの多岐にわたる。こうした中間支援機能を担う団体の活動については第3節でまとめて論じることとし、次節では主に①→④に至る就労支援活動の特徴・意義と課題を見ていこう。

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