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私たちがめざすワーク・ライフ・バランス政策
まずは残業時間を減らすこと

大阪地方自治研究センター 櫻井 純理

 ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現に向け、「働き方を見直そう」という政策が進められている。政府は7月17日、「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」の初会合を開いた。新聞報道によると、年内には官民共同で「行動指針」を作成する予定である。

問題は男性の長時間労働にあり

 日本のワーク・ライフ・バランス政策は「少子化対策」の観点から推進されてきた。そのため、従来の政策の中心は出産・育児をしやすい環境の整備や、それに関連した助成金の給付にあった。ここにきてようやく「働き方の見直し」が重要課題と認識される意義は大きい。

 なぜなら、日本におけるワーク・ライフ・バランスの根本的な問題が男性正社員の長時間労働にあることはかなり明白だからである。『平成18年版労働経済白書』によると、1994年から2004年の10年間で、週60時間以上働く人の割合は25歳から49歳の男性雇用者で着実に増加した。30代後半層では、約19%から24%まで増えて、4人に1人が過労死してもおかしくない状況である。

 このような男性(夫)の超長時間労働は、家庭内で女性(妻)にかかる過重な家事・育児負担とセットで存在している。夫が家事・育児・介護などにかかわる生活時間は1日あたり30分前後にしかすぎず、とりわけ仕事を持つ女性は睡眠時間や自由時間を削って、家事や育児を担っている。

 つまり、男性・女性双方のワーク・ライフ・バランスを適正化するためには、働き方を見直すことが不可欠なのだ。なかでも問題なのは、前述した超長時間労働のかなりの部分が無給の「サービス残業」(不払い残業)として存在していることだ。残業(申し出)時間の上限設定や××手当という形での定額支給、管理監督者扱いによる残業代の不支給などで、雇用者1人あたりの年間不払い残業時間は300時間にものぼる。

 この問題は時短政策の必要性が強く叫ばれた1980年代からずっと変わっていない。それどころか、賃金制度における成果主義の強化やIT化の進展によって、ますます状況は悪くなっているように思われる。

 残業時間(サービス残業時間を含む)を押し上げている原因は産業や企業、そして企業内の職務によってもさまざまである。たとえば早い時期から規制緩和が進められた運輸業では、苛烈(かれつ)な生き残り競争のなかで荷物や客を運ぶ単価が下がり、生活のために長時間働かざるをえない状況が続いている。サービス業や小売業では営業時間の延長や営業日の増加が労働時間の長時間化に直結しがちである。また、1人か2人の正社員が多数のアルバイト・パートを管理しているような飲食店では、正社員1人にかかる仕事の負荷が相当高まっている。

 外回りの多い営業職務では、昼間に得意先から依頼された資料の作成や伝票処理を夜間、会社や自宅で行っていることが多い。IT化は得意先からの要求を高度化・複雑化する要因になるとともに、24時間どこでも仕事が「できてしまう」状況を生み出している。

明確な根拠を持って経営側に要求を

 労働組合に求められていることは、まず、こうした長時間残業を促進している多様な要因を個別・具体的に把握すること。そして、それが現実に改善される方策を会社側に提起することである。部門トータルで残業時間を何時間に抑えるといった「数値目標」を掲げるだけでは、むしろ残業は潜在化し、サービス残業を増やすだけだ。どの部署にどれだけの要員が不足しているのか、明確な根拠を持って経営側に要求する力が組合には求められている。

 疲れ果てた労働者から高い生産性を引き出すことはできない。長時間労働をなくし、適正なワーク・ライフ・バランスを実現することは、経営側にとっても大きな利益をもたらす政策のはずである。

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